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映画「シチリアーノ裏切りの美学」の日本公開日と上映映画館情報|あらすじやキャスト情報・イタリアマフィアの歴史についても

1980年代末から90年代初頭にかけて、イタリア全土はマフィア抗争が激化していました。イタリアの四大マフィアのひとつ、コーザ・ノストラに属したトンマーゾ・ブシェッタは、イタリアの歴史上初めて司法取引に協力し、マフィアからは裏切り者のそしりを受けた実在の人物です。

彼は何故、自らや家族の危険と引き換えに、あえて警察に協力することを決意したのでしょうか。この、イタリア史上に残る事件を映画化したのが、イタリア映画界の巨匠、マルコ・ベロッキオです。

カンヌ映画祭にも出品され、アカデミー賞の国際長編映画賞にもノミネートされたこの「シチリアーノ 裏切りの美学(英題:The Traitor イタリア語の原題:Il traditore)」は、日本で間もなく公開されます。そのあらすじや見どころ、そしてキャスト情報について詳しくご紹介します。

アニー
アニー
まあ日本で言ったらヤクザの抗争みたいなものなのかしら。
クリス
クリス
イタリアのマフィアは表向きはピザ屋だけど、裏で麻薬取引してたっていう例もあるそうだよ。表向きは普通の的屋だけど元締めはヤクザみたいなのと一緒かな。
アニー
アニー
そう考えるとグッと身近な感じがするわね。多分だいぶ違うけど。
クリス
クリス
縁日の射的で大人買いして全部当てたら怖い人が出てきた上に、一等のプレステくれなかったことがあったよ。ちょっとした夏の思い出さ。

「シチリアーノ 裏切りの美学」の公開日

この作品は、2020年8月28日から、東京、愛知、大阪、兵庫、京都の一部の映画館で公開されます(劇場情報はこちら)。

大都市のみ、しかも一部の映画館での上映ということで、地方在住のイタリア映画ファンにはやや残念なお知らせです。映画館で本作品を御覧になる方は、ぜひコロナ対策をしっかりとしてお出掛けください!

「シチリアーノ 裏切りの美学」のあらすじと見どころ

1980年代初頭、シチリアはマフィア同士が拮抗する、麻薬密売の温床となっていました。

パレルモのマフィアである、ステファノ・ボンテートの家では聖ロザリンダの日を祝うパーティーが催されていました。そこでは、ボンテート一家と新勢力のコルレオーネとの間で、ヘロインの利益を山分けして抗争を回避しようとする取引が行われていました。

ボンテートと親しいトマソ・ブシェッタは、両派の仲裁に立とうとしましたが失敗し、かつて住んでいたブラジルへ戻ります。しかし彼がブラジルにいる間に、ボンテートや彼の派閥に属する人間が、コルレオーネの一家に殺されます。また、ブシェッタの実の息子二人も行方不明となるのです。さらに、ブシェッタの友人であるサルバトーレ・コントルノも襲撃を受けます。

そうしている間にブラジルにいるブシェッタは、麻薬の国際取引の罪でブラジルの警察に逮捕されます。警察から様々な拷問を加えられますが、ブシェッタは一向に口を割らず、1年後にはイタリアに移送されます。そこで彼は、ジョバンニ・ファルコーネという裁判官という、マフィア裁判を担当する判事と出会います。ファルコーネは、彼に司法取引に応じるよう提案します。

それに応じることは、マフィアの掟では死に値する裏切り行為でした。しかしブシェッタは、あえてファルコーネに協力することを決意するのでした。

イタリアマフィアの栄枯盛衰に詳しい日本人は、おそらく多くはないでしょう。上記のあらすじも、主人公のトンマーゾ・ブシェッタのそれまでの背景を知らなければ、もうひとつピンと来ない方は多いのではないでしょうか。そこで、少しイタリアマフィアの歴史についてご紹介したいと思います。

イタリアマフィアの、そもそもの発祥は中世にまで遡ります。地主が農民を支配する社会において、地主や政治家と結託して農民から搾取していた農地管理人という武装集団が、マフィアの起源だと言われています。

20世紀に入ると、マフィアは労働運動などを扇動しながら、企業や政治へと深く関わっていくようになります。19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカに移住したイタリア系移民たちは、アメリカ社会の底辺に置かれながら、同郷の人間同士で協力関係を築くようになりました。そこからアメリカでのイタリア系マフィアが誕生していったのです。

1920年代、イタリアはムッソリーニのファシスト政権が支配し、マフィアは弾圧を受けて壊滅的な状態になりました。しかしその後、第二次世界大戦中にアメリカがアメリカマフィアを利用してイタリア攻略を図ったことから、逆輸入という形で復興し現在に至るのです。

本作の主人公、トンマーゾ・ブシェッタは、1940年代に17歳でマフィアに入っています。その動機としては「周囲から尊敬され、名誉ある男だと思われたかった」というものですが、要は少年が、カッコイイ男に憧れたというところでしょうか。当時のマフィアには、日本のヤクザ映画のヤクザがある種かっこ良く見えてしまうような、そんな雰囲気があったのでしょう。

1950年代、戦後の復興と共に、イタリアではマフィアの主導権争いが起き、1960年代に激化します。これが第一次マフィア戦争と呼ばれるものです。ブシェッタはこのマフィアの抗争が激しくなる中、アメリカへ逃亡しますが、密入国がバレてブラジルへ移動します。その後、麻薬密輸などに関わってブラジルで逮捕され、イタリアへ移送され、イタリアで8年服役します。

その後、仮釈放中に逃亡しますが、その際にパレルモのマフィア、ステファノ・ボンテートに匿ってもらったという経緯があります。その経緯があって、あらすじの冒頭につながるわけです。映画の舞台は1980年代に激化したマフィアの抗争、すなわち第二次マフィア戦争の時代にあたります。

ブシェッタが何故、警察に協力することにしたのかは、ネタバレになるので詳細は控えます。ただ、17歳のブシェッタ少年が憧れた、古き良き時代のマフィアが闊歩した時代背景を知っておくことが、この映画の理解を助けることは間違いありません。

なお、ブシェッタに司法取引を持ちかけたファルコーネ判事は、その後マフィアによって1992年に暗殺されています。この暗殺事件後、堅気のイタリア国民のマフィアに対する反感は強くなりました。警察はマフィアの取り締まりを強化し、現在ではマフィアの絡む殺人などの凶悪事件は減少傾向にあるということです。

「シチリアーノ 裏切りの美学」のキャスト

トンマーゾ・ブシェッタ役(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)

 

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イタリア、ローマ出身。90年代から俳優としてイタリアの映画、テレビドラマで活躍し、2005年には犯罪ドラマ映画「Romanzo criminale(英題:Criminal Novel)」で、イタリア映画界で最も権威のある映画賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」の最優秀助演男優賞を受賞しています。なお、アメリカ映画の「ナイトミュージアム」(2006)で、コロンブス役としてチラッと出演したこともあるようです。

本作「シチリアーノ 裏切りの美学」では、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀主演男優賞を獲得。名実ともに、イタリアの映画界を代表する俳優であることは間違いありません。

本作で、主人公のブシェッタを演じているファヴィーノは、この役を演じるにあたり、ベロッキオ監督と共に実際にシチリア島の州都であるパレルモへ赴き、現地のリサーチをしたということです。そのことに関して、彼はインタビューで次のように話しています。

「パレルモへ行くことは実に重要なことでした。というのは、想像したり文献で読むことと、実際に赴くのはまるで違うからです。そしてパレルモ出身でなければ、その街がいかにマフィアの影響を受けているかということを理解できないでしょうね。その土地では、誰がマフィアに属して誰が属していないかをみんな知っている。そしてそのことは、この物語に深く関わってくることなのです。特にファルコーネ判事に関してはね。

ファルコーネ判事は、ブシェッタが生まれた土地のごく近くの出身です。だから、彼はマフィアが使う言外の暗号のようなものを熟知している。そのことは、ブシェッタから敬意を受けることに繋がりました。”この男は、自分の言うことを理解できる、信用できる男なんだな”とね。

マフィアの間のコミュニケーションというのは、実に複雑なんですよ。だからそれを知っていることは、判事がブシェッタを理解するのに役立ちました。私自身も、それを理解するのに現地の言葉を理解する必要がありましたね。私は50年代のパレルモの言葉を理解しなければならなかった、というのはそれがこの人物の始まりの時代であったし、それは今日用いられている言葉とは全く異なるものなのです。」

また、彼はマフィア映画というものに関して、次のような意見をもっています。

「この映画はイタリアで非常に人気を得ました。というのは、ファルコーネ判事というのは、学校でも教えられる大変よく知られた人物だからです。しかし多くの人々は、彼がどういう経緯でその名声を得たか、詳しく知りません。ですからこの映画というのは、映画でありつつも、彼の歴史を若い人々が知ることができるという、国民にとって重要なものであり、私はそのことを誇りに思いますね。

マフィア映画はメジャーなジャンルだと思われるかも知れませんが、この作品は今までのマフィア映画とは全く異なるものです。過去の作品はフィクションでしたが、これは事実に基づく物語です。

私は個人的には、この映画によって我々は真のマフィアがどのようなものか、初めて知ることになったのではないかと感じています。この犯罪組織に属する人間に、何の魅力もありませんよ。誰も入りたいとは思わないだろうし、そう感じさせるのはイタリア映画界でも珍しいことではないでしょうかね。」

引用:Moveablefest.com

マフィアというものは、憧れるようなカッコいいものではない。無慈悲に人を殺し、人々から搾取し、麻薬を扱う、反社会的組織なのだ――そんな思いが感じられる、ファヴィーノの言葉です。マフィアの世界や暴力を賛美するものではなく、事実に基づくストイックな歴史映画として見て欲しい。それが本作の主演俳優の願いなのかも知れません。

マリア・クリスティーナ役(マリア・フェルナンダ・カンディード)

 

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ブラジル、ロンドリーナ出身。14歳の時にモデルとしてキャリアをスタートさせ、パリやニューヨークでも活躍。その後、ブラジルに戻りサンパウロ大学で作業療法を学んでいましたが、在学中にテレビドラマなどに出演するようになり、女優業に専念するために中退。2003年、ポーランドのショートフィルム「Dom」で映画デビューし、現在は主にブラジルのテレビ界で活躍しています。

2000年には、ブラジルのメディアで「今世紀で最も美しい女性」としても選ばれ、イタリアの名女優ソフィア・ローレンとも比較されていたカンディード。そんな彼女は、本作では、ブシェッタの3番目の妻であるマリアを演じています。

サルバトーレ・コントルノ役(ルイジ・ロ・カーショ)

 

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イタリア、パレルモ出身。2000年、「ペッピーノの百歩(I cento passi)」で映画デビュー。初出演でしたがその演技が高く評価され、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の主演男優賞を獲得しています。また2001年には、「ぼくの瞳の光(Luce dei miei occhi)」で、ヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を獲得しています。

2012年には映画監督としてデビュー、2018年には作家としてデビューするなど、多彩ぶりを見せています。

本作では、ブシェッタの盟友サルバトーレ・コントルノを演じているロ・カーショ。コントルノという人物は、ブシェッタと共に、警察に協力し裁判で証言したマフィアの一員として知られています。また、パレルモの大物マフィアであった、ステファノ・ボンテートの忠実な腹心でもありました。

ブシェッタとコントルノの証言により、マフィアに関わった人間の475名が起訴され338名が有罪となりました。コントルノは特に、ニューヨークでのピザ店を通じたヘロインの取引に関するものに重要な証言をし、大勢の関係者の逮捕に繋がっています。

「シチリアーノ 裏切りの美学」の監督

 

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この映画の監督は、マルコ・ベロッキオ。イタリア、ピアチェンツァ県ボッビアの生まれです。

ミラノで哲学を専攻していたベロッキオでしたが、やがて映画製作に興味を持ち、1965年、26歳の時に「ポケットの中の握り拳(I pugni in tasca)」で映画監督としてデビューしました。その後、1967年に発表した「中国は近い( La Cina è vicina)」は、ヴェネツィア国際映画祭に出品されて高い評価を受け、審査員特別賞および国際映画評論家連盟賞などを受賞しています。

2000年代からは、取り扱うテーマに政治的なものが多く見られ、1978年に実際に起きたアルド・モーロ元首相の誘拐殺人事件をテーマにした「夜よ、こんにちは(Buongiorno, notte )」(2003)、「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女(Vincere)」(2009)といった社会派の作品を発表しています。

本作「シチリアーノ 裏切りの美学」の製作にあたり、ベロッキオは、ファヴィーノの紹介でも触れましたが、彼と共に実際にシチリアへリサーチに出かけました。その時のことについて、彼はこのように語っています。

「我々はもちろんリサーチから始め、シチリアへ行きました。ブシェッタと、ファルコーネという人々を育てた土地柄や人々を知るためです。我々は深く知ることとなり、特にシチリアの方言について学びました。それは、イタリア語とは異なるものでした。

そしてブシェッタのフィクションな部分も作り上げたのですが、例えば彼がオペラを好むというようなところですね。この映画ではイタリアン・オペラのような非常にメロドラマチックなところがありますが、これは私がオペラの業界から来ていることによります。だから私のスタイルとちょっと繋がりがあるんですね。

そしてピエルフランチェスコは素晴らしい仕事をしてくれました。この人物を理解し、彼のもつ複雑な感情を加えて豊かに表現してくれたと思います。」

また、実際にマフィア裁判が行われた、アチアダン刑務所(Ucciardone prison)の地下にある裁判所での裁判シーンの撮影については、次のように話しています。

「実際の裁判の様子はイタリアのテレビ局によって撮影されていましたので、1年分の裁判の資料映像がありました。我々はそれを20分に凝縮しました。我々はリサーチもしましたが、脚色も加えています。

実際のマフィア裁判が行われた場所と同じ場所で撮影ができたのは、大変恵まれたことでした。そして我々は、この裁判をオペラ劇場のような雰囲気にしたこの地下の裁判所に、胸が熱くなる思いでした。全ての参加者――判事、囚人、傍聴人が、ドラマチックなやり方で関わり合っていましたね。そして私たちはシチリア語というものを守りたかったのです。だからシチリア語で話されている部分には、イタリア語の字幕をつけ、その力強さをそのまま表現しました。

シチリア語というのは演劇的要素のあるものですから、この裁判における重要な特徴になったと思います。」

引用:Moveablefest.com

シチリア語のもつ響き――このあたりは、イタリア語を話さない観客にとっては、その味わいを感じ取るのは残念ながら難しそうです。日本で言えば、ヤクザ映画で広島のヤクザが広島弁で裁判の答弁をしている図、といったところでしょうか。確かに、標準語で話すよりは、その方がリアリティがありそうです。

この作品は、ベロッキオ監督がこれまで扱ってきたテーマとは、やや趣向が異なるものだというのが多くの映画評論家の意見です。何故マフィアというものを扱うことにしたのか、という理由については、トンマーゾ・ブシェッタの人物像に監督自身が興味を惹かれたためであるそうです。

「彼は犠牲者でもなければ、ヒーローでもないんです。とても意志の強い男で、いつも奔走している、サバイバーだと思います。彼は常に危険な状況を切り抜けてきたのです。彼は家族を愛し、生きるためには司法と協力しなければいけないと悟った。だからマフィアを裏切らなければならなかったのですよ。」

引用:Variety

80代に入っても、作品で扱う人物やその背景を深く知ろうとし、リサーチを重ね、新しい発見に胸を熱くする。好奇心を失わない、エネルギーに満ちたクリエイターの姿勢が、この作品のそこかしこに感じられることでしょう。

「シチリアーノ 裏切りの美学」の評判

この映画を既に観た人や、これから観るという人が、その感想や期待をツイッターで呟いています。

まとめ

  • 「シチリアーノ 裏切りの美学」は、8月28日より東京、愛知、大阪、兵庫、京都の一部の映画館で公開予定
  • イタリアのマフィア戦争の果てに起こった、事実に基いた物語である
  • マルコ・ベロッキオ監督と主演のファヴィーノがシチリアでリサーチを重ね、リアリティが追求された作品に仕上がっている

 

イタリアに生まれ、イタリアを愛する監督と俳優が、イタリアの歴史に深く根差したマフィアという存在を、あえて現実的な視点で描き出した意欲作です。ゴッドファーザーや、アンタッチャブルとはまた違う、メイド・イン・イタリーのマフィア映画。お近くの方は、是非脚を運んでみてはいかがでしょうか。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。